インテリアデザイナー平松昭良が選ぶ、台所の道具と素材のこと

こんにちは、平松昭良です。東京・表参道で家具製造会社のインテリアデザイナーとして働きながら、料理を建築やデザインの視点で書いています。これまで構造や余白の話をしてきましたが、今回は少し趣を変えて、台所の道具について書いてみます。鍋やまな板、器といった道具を選ぶ感覚は、私が仕事で家具の素材を選ぶ感覚と驚くほど似ています。今日はその話を、ひとつの汁物のレシピとともにお伝えします。

素材を選ぶという仕事

家具をデザインするとき、最初に向き合うのは素材です。木にするのか、金属にするのか、布をどう組み合わせるのか。同じ椅子でも、選ぶ素材によって座り心地も、空間に置いたときの印象も、そして十年後の姿もまるで変わってきます。私はいつも、見た目の美しさだけでなく、触れたときの質感や、使い込むほどに育っていく経年変化までを想像しながら素材を選んでいます。物は買った瞬間が完成ではなく、使われていく時間のなかで本当の表情を見せるものだと考えているからです。

この感覚は、台所の道具を選ぶときにもそのまま働きます。安く手軽なものは確かに便利ですが、毎日手に取る道具こそ、素材と向き合って選ぶ価値があります。木のまな板の手触り、鉄のフライパンの重み、土の器のざらりとした質感。そうした素材の個性は、料理する時間そのものを少しだけ豊かにしてくれます。道具は料理の脇役のようでいて、実は食卓の空気をつくる立派な主役なのです。

経年変化を楽しめる道具たち

私が台所で大切にしているのは、使うほどに良くなっていく道具です。たとえば木のまな板は、最初こそまっさらですが、使い込むうちに包丁の跡がなじみ、手にしっくりくるようになります。鉄の鍋やフライパンも、丁寧に油をなじませていけば、表面が育って焦げつきにくくなり、長く付き合える相棒になっていきます。新品の状態が一番きれいで、あとは劣化していくだけの道具とは、過ごす時間の意味がまるで違います。

これは家具とまったく同じ考え方です。良い木の家具は、傷さえも味わいに変えながら、その家の歴史を静かに刻んでいきます。台所の道具にも、そうやって時間を共に重ねていけるものを選びたい。手入れに少し手間がかかったとしても、その手間こそが道具への愛着を育て、料理に向かう気持ちを整えてくれます。効率だけでは測れない豊かさが、そこにはあると感じています。

良い鍋で炊く、シンプルな塩スープ

道具が主役になる一皿として、今回はあえて飾り気のない塩スープを紹介します。立派な鍋さえあれば、素材の力だけで十分においしくなる料理です。材料は二人分で、お好みの野菜を適量。今回は玉ねぎ、人参、キャベツ、それにベーコンを少し使いました。味つけは水と塩、こしょう、そして仕上げのオリーブオイルだけです。

厚手の鍋を用意してください。鋳物のホーロー鍋でも、底のしっかりした鉄鍋でもかまいません。大切なのは、熱をゆっくりと均一に伝えてくれる鍋であることです。まず鍋を弱めの中火で温め、ベーコンを軽く炒めて脂を引き出します。そこに食べやすく切った玉ねぎを加え、塩をひとつまみ。野菜から水分が出てくるまで、焦らずじっくり炒めるのがおいしさの土台になります。

野菜がしんなりしたら、人参とキャベツを加え、ひたひたになる程度の水を注ぎます。あとは蓋をして、弱火で二十分ほど静かに煮るだけです。良い鍋は余熱の力が強いので、火を止めてからしばらく置くと、味がいっそう深くまとまります。仕上げに塩で味をととのえ、こしょうとオリーブオイルをひとまわし。たったこれだけですが、鍋の力で野菜の甘みがしっかりと引き出された、滋味深い一杯になります。

道具と暮らす

できあがったスープを器によそうとき、その器もまた料理の一部です。私はこの素朴なスープを、少し厚みのある土の器で受けるのが好きです。手にしたときのあたたかな重みが、料理の素朴さとよく響き合うからです。道具を選ぶことは、料理を選ぶことであり、そして暮らしの時間そのものを選ぶことなのだと、台所に立つたびに思います。

良い道具は決して安くはありませんが、長く使えば一日あたりの価値はむしろ小さくなり、何より毎日の料理を楽しいものにしてくれます。家具を選ぶときと同じように、これから長く付き合っていける一つを、ぜひ丁寧に選んでみてください。次回は、光と影が食卓に与える影響について、照明設計の視点から書いてみようと思います。どうぞお付き合いください。

キッチン用品を買い替えたい、追加で買いたいという方におススメの記事はこちらです。

買ってよかったキッチングッズは?
時短の便利アイテムやプレゼント用も紹介!
【編集部おすすめ】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA